
鬼――それは恐れられ、忌まれ、時に崇められる存在。陰陽師と呼ばれる術者たちは、そんな鬼たちとどんな関係を結んできたのでしょうか?
陰陽道の世界では、鬼は単なる「退治すべき敵」ではなく、ときに使役され、封印され、時には儀礼において活用される複雑な存在です。特に安倍晴明は、鬼を操る式神として使いこなし、呪術と知恵で数々の怪異を収めたと語られています。
このページでは、そんな陰陽師と鬼との間にある「ただの敵対関係ではない深い縁」について、古典の逸話をもとにわかりやすくかみ砕いて解説します。
幼少期の安倍晴明は、ふつうの人には見えない「百鬼夜行」を見通せたといわれています。夜道を師の賀茂忠行と歩いていたとき、晴明だけが鬼たちの行進を察知して、師を危険から守ったという話も。
この“霊視”の力は成長とともに研ぎ澄まされ、鬼を見分けるだけでなく、使役することもできるようになったとされます。特に力の弱い鬼は、式神として召喚・使役され、家事の手伝いや警護に使われたというんだからびっくりですね。
蘆屋道満との術比べも有名な話。道満が神通力で橘の実を生み出すと、晴明はその橘をネズミに変えてしまうという逆転の術を見せます。このとき用いたのが、自身の式神だと言われているんです。
つまり、晴明は鬼たちを完全に支配・制御する術を持っていたというわけ。この話は、陰陽師の実力と精神力の強さを象徴する逸話として、今も語り継がれています。
晴明の活躍は、見えない異変や呪いの元凶を暴いて封じるという場面にも。『宇治拾遺物語』では、藤原道長の愛犬に取り憑いた鬼を晴明の式神が察知し、術をもって解除。その結果、呪いをかけた張本人――なんと道満が罪に問われたという展開に。
また、『続古事談』には、鬼と化した橋姫の腕を式神の力で封印したというお話も。こうした話から、鬼を倒すだけでなく調伏・封印するのも陰陽師の大事な役割だったことがわかります。
平安の大悪鬼酒呑童子や、妖狐玉藻前の退治にも、晴明やその一族が裏から手を貸したとされる説があるんです。儀礼に用いる道具の用意や、封印の術式を伝授したと考えられており、表に立たずとも呪術の中核を担っていたとも。
こうした話は文献にはっきり残っているわけではないものの、「陰陽師=裏方の大技術者」というイメージをより一層リアルにしてくれます。
十二天将を式神として従え、鬼神をも制する――これは単なる伝説ではなく、陰陽師が国家や貴族の守護者として担った重要な役割を象徴しています。
そしてもうひとつ有名なのが、晴明の母が白狐の化身・葛葉であったというお話。生まれながらにして異界との縁を持ち、鬼や精霊の存在を自然に受け入れる体質だったともいわれています。
こうした物語は、『大鏡』『今昔物語』『宇治拾遺物語』など多くの古典に記録されていて、陰陽道の信仰世界が鬼という存在を通じて形作られていったことを教えてくれます。
五行要約