


十二天将の中でも、ひときわ異彩を放つ存在──それが騰蛇(とうだ/とうしゃ)です。
名前の響きからしてすでにただ者じゃない感じですが、その実態は「羽の生えた炎の蛇」。炎をまとい、霧のように現れては人々の心に恐れや幻を植えつけるという、まるで妖怪のような存在です。
このページでは、そんな騰蛇の持つ能力や象意、そして彼が司る方角や五行の意味について、陰陽道や六壬式などの古代占術の知識をまじえながら、わかりやすくご紹介していきます。
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騰蛇は「十二天将(じゅうにてんしょう)」の中でも最初の一柱、つまり「前一(ぜんいち)」に位置する神将です。
十二天将は、陰陽道や六壬神課といった占術において、盤面(式盤)上に配置される霊的存在。それぞれに方角・干支・五行・季節などの属性が割り振られており、吉凶を見定める重要なキーになります。
その中でも騰蛇は、火(丁)の五行、巳(み)の十二支、南東の方角、そして夏の季節を象徴します。いわゆる「熱く、激しく、揺れ動く」性質の持ち主です。
騰蛇のルーツは古代中国の神話や天文思想にさかのぼります。その姿は「火に包まれた羽のある蛇」とされ、星辰では「熒惑(けいかく)=火星」の精とされることもあります。
『六壬秘本』では「螣蛇者,熒惑之精,家在丁巳,旺在孟夏」と記されており、丁巳(火の巳)に属し、初夏に最も力を増す存在とされています。
その姿からも分かるように、騰蛇は「空を舞う蛇」、つまり地を這わず、制御の効かない変異の象徴。突発的な災厄や精神の揺らぎ、言語混乱など、目に見えない“心理のトラップ”を司る存在とされてきました。
騰蛇のエネルギーは非常に多面的。ざっと挙げるだけでも、以下のような象意があります。
このように、物理的な火災から精神的な混乱まで、幅広い“乱れ”を表す凶将として知られています。
特に「騰蛇が午に乗ずると火毒が強まる」との言い伝えがあるように、火の気が強すぎると凶事を呼びやすいのが特徴です。

騰蛇が配された六壬式盤
六壬神課で用いる式盤の図。騰蛇を含む十二天将の配置と運行を読み取り、占断に活用するための基本図像。
出典:『Chokuban』-Photo by Wikiwikiyarou/Wikimedia Commons CC BY-SA 3.0
六壬神課の式盤では、騰蛇は南東(巽)の方角に配置されます。この方位は本来、春から夏へと向かう「成長・発展」のエネルギーが宿る場所。しかし、そこに騰蛇が現れると、成長を妨げる火災や混乱といった象意が入り込むことになります。
風水的には、南東は木火の相生関係が働く場所でもあるため、火が過剰に働きすぎると「燃えすぎてしまう」事態が起きやすい。とくに、言語や人間関係のトラブルには注意が必要です。
騰蛇は「陰の火(丁)」に分類され、陽の火(丙)に比べて内にこもった、精神的・感情的な炎を表します。これが、騰蛇の持つ「心理の揺さぶり」や「夢・幻の力」と深く関係しています。
また、五行の中で火は木を生み、土を剋する存在。つまり、情報や知識(木)を燃え上がらせて拡散させる一方で、安定(土)を崩す力も持ちます。騰蛇の作用が「言葉による混乱」や「誤報・錯乱」につながるのもこのためです。
五行要約
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