安倍晴明といえば京都、あるいは大阪・阿倍野が有名ですが、実は茨城県筑西市にも「晴明生誕の地」とされる場所があるんです。それが、筑波山のふもとに広がる猫島（ねこじま）地区。

 

地元に伝わる数々の伝承には、呪術、風水、狐伝説──晴明らしさ全開のエピソードが盛り込まれ、まるでもう一つの「陰陽師のふるさと」と言ってもいいほど。

 

このページでは、筑西市に残る安倍晴明の伝承群を、現地のスポットや語り継がれた逸話をもとにわかりやすくかみ砕いてご紹介します。

 

 

安倍晴明の出生地伝承「猫島」

最初に注目したいのが、『ホキ抄（ほきしょう）』に記された「常陸国筑波根の麓猫島の生の人」という記述。これが、晴明の誕生地＝筑西市猫島という伝承の根拠になっています。

 

地元では、この晴明伝承を大切に語り継いでおり、「晴明塚」や「晴明橋」などの地名・史跡が今も残されています。

 

つまりここ筑西では、晴明は「京から来た偉人」ではなく、この地で生まれた守り神のように扱われているんです。

 

晴明橋の伝説と「舟つなぎの柳」

猫島地区はかつて湿地帯で、たびたび洪水に悩まされていました。そこに登場したのが安倍晴明。

 

彼は堤防を兼ねた石橋を架け、災害を防いだとされ、この橋が現在も「晴明橋」として残されています（※石橋の一部は復元展示）。さらに、近くの柳は晴明が舟をつないだと伝えられ、「晴明舟つなぎの柳」として地元では語られています。

 

地域の困りごとに手を差し伸べる、まさに「現地密着型陰陽師」の姿が浮かんできますね。

 

晴明塚と一ノ矢伝承

晴明塚と呼ばれる小高い場所には、こんな伝説が残されています。晴明が病魔退散の祈願のために弓矢を放ったところ、その矢が飛んでいった先が、現在の筑波市・一ノ矢。

 

つまり「一ノ矢」という地名は、晴明の祈祷の産物だというんです。このように地名にまで影響を与えたというのは、かなり地域に根づいた人物として敬われていた証拠ですね。

 

高松家の伝記と「五角井戸」

猫島地区の高松家には、江戸時代の「晴明伝記」の版木が保存されており、その中には五芒星（晴明桔梗紋）や九字紋が彫られています。

 

敷地内には五角形の井戸や、晴明を祀った小さな晴明神社もあり、井戸の水は眼病や子宝にご利益があると信じられてきました。

 

この家一軒だけで、小さな「陰陽師博物館」みたいな雰囲気を漂わせているのもおもしろいですね。

 

狐の母と猫の島という神話構造

最後に、「猫島」という地名の由来にも、晴明伝承が関わっています。

 

伝説によれば、かつて吉備真備が猫に囲まれて困っていたとき、どこからともなく現れた童子（晴明）が猫を払って助けた

 

──この出来事が「猫島」の由来になったという話もあるんです。

 

さらに晴明の母が白狐＝葛の葉という伝承も加わり、「狐の母と猫の地」という神話的な組み合わせがこの土地の伝承をいっそう幻想的なものにしています。