平安時代――それは優雅な貴族文化が花開く一方で、夜ごとに妖怪や怨霊がさまよう“異界の入り口”でもありました。安倍晴明という人物が陰陽師として活躍できたのは、そんな不思議と恐怖が日常に溶け込んでいた時代だったからかもしれません。

 

このページでは、「安倍晴明が生きた平安時代」がどんな世界だったのか、特に“百鬼夜行”や陰陽師がなぜ重要視されたのかを、当時の文化や社会背景とあわせて解説します。

 

 

平安時代は「怪異」と「美」が共存した時代

794年〜1185年、平安京への遷都から鎌倉幕府成立までの約400年は、日本文化が大きく進化した時代でした。政治的には藤原氏の摂関政治が力を握り、貴族たちが華やかな生活を送りつつも、政治・儀式・宗教に深く関与する文化が形成されます。

 

この時代に特徴的なのが、

 

「幽玄」や「見えざるもの」への感受性がめちゃくちゃ強かった

 

ということ。災害や病気の原因を怨霊や物の怪に求める風潮が強く、陰陽師や僧侶といった“異界とつながる職業”の人々に絶大な信頼が寄せられていました。

 

百鬼夜行が定着した理由

「百鬼夜行（ひゃっきやぎょう）」という言葉が文献に登場するのは、10〜11世紀ごろ。これは「夜になると妖怪たちが行列をなして歩く」というもので、貴族たちのあいだでは「その日に外を歩くと命に関わる」として恐れられていました。

 

当時の記録（『今昔物語』『江談抄』など）には、百鬼夜行を避けるために陰陽師が方除けの術を行ったという記述もあり、すでに晴明のような陰陽師は“夜の恐怖”を和らげる存在として重宝されていたのです。

 

ちなみに、この百鬼夜行のビジュアルイメージは室町時代以降の絵巻物に描かれ、江戸・現代へと続く妖怪文化の源流となっていきます。

 

陰陽師が国家制度として機能していた

晴明が属した陰陽寮は、天文・暦・占術を司る国家機関。災厄や凶兆への対応、疫病への祈祷、さらには建物の方位・天皇の移動にいたるまで、あらゆる「見えざるリスク」への対処を担っていました。

 

それだけに、陰陽師たちは政治的にも重要な存在。特に晴明のように貴族や天皇から個人的な信頼を得る者は、スピリチュアルな国家顧問ともいえる存在だったんです。

 

平安京の夜は「異界との境界」だった

平安京には街灯なんてありません。月明かりと灯明だけの暗闇の中、人々は“何か”の気配に怯えていました。夜道を歩くこと自体がリスクであり、だからこそ「百鬼夜行」のような想像が生まれたんですね。

 

その闇を読み、制御しようとしたのが陰陽師たち。安倍晴明は、そんな恐れ多き夜の京で、式神を従えながら、人々の不安を祓っていたわけです。

 

妖怪文化は現代にも受け継がれている

平安時代に根付いた百鬼夜行や妖怪伝承は、江戸時代の浮世絵や、現代のマンガ・アニメ・ゲームへと形を変えて生き続けています。

 

京都・一条通では毎年「百鬼夜行」を模したイベントが開催され、晴明神社は今なお人々の信仰を集めるパワースポット。

 

つまり、安倍晴明が活躍した時代の“夜の世界”は、今も私たちの心の中に息づいているんです。