
蘆屋道満――その名を聞くと、「呪い」「裏切り」「悪の陰陽師」といったイメージが先行しがちですが、実は彼、陰陽術の“本質”ともいえる式神使いや九字切りの技法に秀でた、かなりの“実力派”だったと伝えられています。このページではそんな道満の能力について掘り下げていきますね。
まず注目したいのが式神(しきがみ)。陰陽師が使役する霊的存在で、命令に応じて情報収集・結界・攻撃・守護などをこなす“使い魔”のような存在です。
道満が式神を使っていたという確かな記録はありませんが、播磨・加古川の正岸寺では、「道満の式神が封じられた井戸」の伝承が残っています。夜になると井戸の霊が地蔵を傾けたという怪談があり、今でも「こけ地蔵」として語り継がれています。
つまり、地元の人にとって道満の式神は、現実に干渉してくる存在として恐れられていたんです。
伝説の中では、道満は安倍晴明の式神に敗れたという記述もありますが、それは逆に「互角の術者」として描かれている証拠でもあります。
晴明の式神が十二神将のような仏教的存在に発展するのに対し、道満の式神はもう少し“野生的”で“危うい力”を持っていたイメージ。陰陽師のタイプとしては、祓いよりも攻めの呪術に長けていたのかもしれませんね。
次に紹介するのは、蘆屋道満のシンボルとも言える呪術技法九字切り。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」という九文字の呪文を唱えながら、手刀や指で空中に格子状の線を切ることで、強力な結界を張るとされる技です。
この呪術が図形化されたのが、いわゆるドーマン紋。碁盤のような格子は邪を見張り、侵入を防ぐ“霊的な監視網”のような意味を持ち、海女のお守りにも使われるほどの防御力を象徴しています。
晴明が「調和」「五行」「式神による補佐」を得意とする一方で、道満は直接的な術・護身・防衛呪術に強かった――そう読み解くことができます。
つまり道満は、攻防のバランスに長けた“実戦型陰陽師”。晴明が宮廷陰陽師の「正規ルート」なら、道満はアウトローの「現場主義タイプ」とも言えるかもしれません。
陰陽道の世界において式神と九字切りは、まさに基本と応用の象徴。これを使いこなせる者は一流の術者とされてきました。
道満はその両方を駆使したからこそ、安倍晴明と渡り合える“もう一人の陰陽師”として、何百年も語り継がれているのかもしれません。
五行要約