
安倍晴明といえば、呪いを“仕掛ける”イメージよりも、むしろ「呪いを見抜いて跳ね返す」スペシャリストという印象の方が強いかもしれません。彼の呪術の本質は、攻撃型ではなく防御・解除・逆襲のトリプル技術。では、いったいどんな場面で、どんなふうに呪いを扱っていたのでしょうか?このページでは、晴明の「呪術の実態」について解説していきます。
最も有名な逆呪のエピソードが、藤原道長の飼い犬が不審な行動をしたことから始まった話です。犬が突然散歩を嫌がり、吠え続けたことで道長が不安になり、晴明を呼んだところ、なんと呪詛が埋められていたのです。
晴明は即座にそれを見抜き、式神を使って呪具を掘り出し、封印。この話は『宇治拾遺物語』にも収録されていて、彼の異常を察知する感覚と即時対応の腕前が光る代表例となっています。
ただ封印するだけじゃ終わらないのが晴明の術。彼は呪いをかけた張本人が誰かを突き止め、そのまま呪いを跳ね返す=呪い返しという形で“お返し”することができたんです。
とある逸話では、晴明が呪詛をかけた陰陽師の身元を即座に特定し、式神を用いて制裁。流刑、あるいは死に至ったとも言われています。この強力な“カウンター術”が、晴明を「陰陽界の鉄壁」と言わしめたゆえんです。
さらにもう一つ忘れてはいけないのが、『宇治拾遺物語』の中にある「蔵人少将を封ずる事」。ここでは晴明が、呪いに苦しむ貴族を救うべく、式神を用いて加害者に呪いを逆流させるという戦術をとります。
結果、加害者は命を落とし、少将は救われたという展開。晴明は単なる除霊屋ではなく、正義の執行者として呪術を使っていたんですね。
ライバル蘆屋道満との術比べでもわかるように、晴明は相手の術を見破って逆利用することに長けていました。相手が使った式神や呪具を、逆符・結界・式神反制といった手段で封じ、場合によっては術そのものを逆流させる。
これは盾と剣を同時に操るような高度な呪術スタイル。ただ「防ぐ」だけじゃなく、「攻めに転じる」その緻密さが、多くの貴族たちから信頼を集めた理由です。
注目すべきは、晴明が基本的に自分から呪詛をしかけることはしなかった点です。
彼は、
呪い返しを行うという節度ある姿勢を貫いていました。
これはただの呪術師ではなく、道徳的なバランスを重んじる陰陽師としての在り方を示していて、「呪うよりも癒し、必要なら制裁する」という、“救済と断罪を司る存在”だったともいえるでしょう。
五行要約