
安倍晴明といえば、まるで物語から飛び出してきたような伝説の陰陽師。けれど、彼は本当にいた人物で、しかも神や妖怪とガチで関わっていたというからビックリですよね。古文書や伝承をひもといていくと、晴明と霊的な存在との関係が、ただのファンタジーではなく、当時の人々にとって現実と地続きだったことが見えてきます。
ここでは、そんな晴明と神・妖怪との不思議で深い関係について、わかりやすくかみ砕いて解説します。
まず驚きなのが、晴明は妖怪が見えるという特別な力を持っていたということ。しかもその理由として語られているのが、母親がなんと白狐=葛の葉だったという説!つまり晴明は人間と妖怪のハーフ、いわゆる半妖だったって話です。
そのおかげで、幼いころから百鬼夜行(夜にぞろぞろ歩く妖怪の群れ)を見抜いたり、普通の人には見えない存在と対話したりすることができたんですね。
百鬼夜行
『今昔物語集』において、陰陽師・賀茂忠行が内裏からの帰途、幼い安倍晴明に呼び止められ百鬼夜行に遭遇。晴明の霊視力により災厄を回避し、以後忠行は晴明を弟子として育てたという。
出典:河鍋暁斎/Wikipedia Commons Public Domainより
晴明といえばやっぱり式神(しきがみ)!妖怪みたいな姿をした霊的な使い魔たちで、彼はそのうちの十二神将を使役していたといわれています。呪い返しの術を使うときなんかにも、この式神たちが活躍したそうです。
実はこの式神、敵を倒すだけじゃなくて、なんと掃除や戸締まりなんかの日常業務も担当してたという話まであります(笑)。でも奥さんは怖がったので、橋の下に隠しちゃったなんてエピソードもあります。
不動利益縁起絵巻の一場面
園城寺(三井寺)の縁起『不動利益縁起』絵巻から、安倍晴明が式神2匹を従え、病身身代わりの祈祷を行う中盤の場面
出典: Wikimedia Commons public domainより
晴明のすごさは、妖怪だけじゃなく神様とのつながりにもありました。中国由来の泰山府君(たいざんふくん)など、異国の神霊をも祀っていたというのがまたスケールでかい!
朝廷では天皇の長寿や国家安泰の占いを任されるなど、まさに国家レベルの「神の声を聞く者」だったわけです。神霊に通じる陰陽師としての威厳、バリバリに発揮してます。
晴明の物語で欠かせないのが、鬼や妖怪との戦い。とくに有名なのが、鬼女「橋姫」の腕を渡辺綱とともに切り落とし、晴明が封じたという話。あらすじとしては以下の通りです。
昔、嵯峨天皇が治めていたころ(西暦800年代のはじめ)、ある高貴な家の娘が、強い嫉妬の気持ちから恐ろしい願いを抱くようになりました。彼女は貴船神社に7日間こもり、「神さま、どうか私を鬼にしてください。憎らしいあの女を殺したいのです」と祈りました。神さまはその願いを哀れに思い、「本気で鬼になりたいなら、姿を変えて宇治川に21日間ひたりなさい」と告げました。
娘は都に戻ると、髪を5つに分けて角のように立て、顔や体に赤い化粧をし、鉄の輪を逆さに頭にかぶってその3本の足に松明を灯し、さらに燃えた松明を口にもくわえました。火が5つとも燃える中、夜になると鬼のような姿で町を走り抜け、人々はその姿を見ただけで命を落としてしまいました。こうして彼女は宇治川に21日間ひたり、神さまの言ったとおり、生きたまま本物の鬼に変わったのです。これが「宇治の橋姫」と呼ばれる鬼の誕生です。
鬼となった橋姫は、もともと恨んでいた女だけでなく、その親類や相手の男性、その家族、さらには無関係な人々まで次々と命を奪っていきました。女を殺すときは男の姿に、男を殺すときは女の姿に化けて近づき、だましたのです。都の人々は恐れ、午後3時を過ぎると誰も外に出ず、誰も家に入れなくなりました。
そんな中、源頼光の家臣で四天王の一人、源綱(みなもとのつな)が一条大宮へ行く任務を受けます。夜道が危険なため、頼光は名刀「鬚切(ひげきり)」を綱に持たせ、馬に乗って向かわせました。
帰り道、一条堀川の戻橋(もどりばし)で、一人の若い女性に出会います。20歳すぎに見える彼女は、白い肌に紅色の着物をまとい、お経の本を持って南へ歩いていました。綱は「夜は危ないので、五条まで送りましょう」と言って馬を降り、女性を馬に乗せて南へ向かいました。
途中、彼女は「家は都の外なのですが、もう少し送ってもらえませんか」と頼みます。綱が快く引き受けると、彼女は突如鬼の姿となり、「愛宕山へ行きましょう」と言って綱の髪をつかみ、空へ舞い上がりました。
綱は落ち着いて名刀を抜き、鬼の腕を切り落とします。綱は北野神社のあたりに落ち、鬼は腕を失ったまま愛宕山へ逃げていきました。切り落とした腕をよく見ると、雪のように白かった肌は真っ黒になり、白い毛がびっしりと生えていたのです。
綱がその腕を頼光に見せると、頼光は驚いて陰陽師・安倍晴明(あべのせいめい)を呼び、相談しました。晴明は「綱は7日間、人との関わりを断って静かに過ごしてください。鬼の腕には私が仁王経を唱えて封印をします」と言い、その通りにしました。こうして鬼の力は封じられたのです。
橋姫
もともとは古くは水神信仰の一つで、橋の守護神として祀る文化もあるが、『平家物語』では嫉妬に狂う鬼として描かれる。
出典:竜斎閑人正澄 / Wikimedia Commons パブリックドメインより
さらに酒呑童子や猫又など、地域に根ざした妖怪との対決譚も多く残されています。
いまや晴明は、日本だけじゃなく中国語圏でも大人気。映画・ゲーム・アニメなどで神や妖怪と共に戦うキャラとして描かれているのを見たことある人も多いはず。
でも、そのベースにはしっかりと史実や伝承に根ざしたキャラ設定があるんですよね。「霊を見抜き、式神を従え、神にも通じる存在」…そんな晴明像が現代の物語にも息づいているって、なんだかロマンありますよね。
五行要約