
安倍晴明といえば平安最強の陰陽師。でも、彼の伝説のはじまりには、ある悲しい母子の物語があるんです……。その母の名は葛の葉(くずのは)。人間に化けた白狐であり、晴明の母だと伝えられています。
妖狐と人間の恋、そして子との別れ――「葛の葉子別れ」は、今も語り継がれる感動の伝承。このページではこの切ないお話を、晴明伝説とともにご紹介します。
舞台は和泉国・信太の森。狩人に追われていた白狐を助けたのが安倍保名(やすな)。そのとき負傷した保名の前に、ひとりの女性葛の葉が現れて手当てしてくれるんですね。
最初は介抱だけだったのに、通ううちに二人は恋仲に。やがて結婚し、子ども童子丸(のちの晴明)が生まれます。
幸せな時間は長くは続きません。ある日、葛の葉の狐のしっぽが見つかってしまい、ついに正体がバレてしまうのです。
もう人里にはいられないと悟った葛の葉は、和歌を一首残して、姿を消す決意をします。
恋しくば 尋ね来てみよ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉
……この和歌、今もなお「別れの名歌」として語られるほど有名なんですよ。
母を探しに信太の森を訪れた保名と童子丸。すると、一匹の狐が現れて、次の瞬間――それは葛の葉の姿に変わります。
再会の喜びも束の間、葛の葉は水晶の玉と黄金の箱を息子に手渡し、再び森の奥へと姿を消しました。これらの品は稲荷大明神から授けられた“霊力の形見”だったんですね。
その出来事が、のちに童子丸が安倍晴明として開花していく伏線になっていくのです。
葛の葉が去ったあとの晴明は、その神秘の血筋と霊具の加護もあって、天文・占術の世界でズバ抜けた才能を見せ始めます。
この伝承があるからこそ、晴明は単なる学者じゃなく、人ならざる存在との血のつながりを持った異能者として語られるわけですね。
ちなみにこの話、江戸〜明治にかけて浄瑠璃や歌舞伎にも登場していて、晴明の人気を後押しした名エピソードでもあるんですよ。
そもそも狐って、古来より霊獣・神使として尊ばれてきた存在。特に稲荷信仰では神の使いとして知られていて、「陰陽道」とも深い縁があります。
また、陰陽五行説においては、狐は「陰」の気を帯びた存在とされていて、夜や霧、女性、魔術との関係性が象徴されているんです。
「女狐(めぎつね)」なんて言葉も、狐が女性に化けて人間をだます――そんな古くからのイメージが残ってる証拠ですね。
五行要約